日本学術振興会:科学研究費助成事業
研究期間 : 2018年04月 -2023年03月
代表者 : 谷口 俊恵; 寳田 穂; 黒江 ゆり子
2021年度は、違法薬物に依存する者の家族(親)3名にインタビューを実施した(ただし、新型コロナウイルス感染症蔓延による影響のため、インタビューは予定通り進んでいない)。インタビュー参加者はすべて依存症者の母親で、子の薬物の使用は「本人に言われて/警察が突然、家に来て」知るのだが、その事実を知る前と後とで子の様子に大きな変化がないにもかかわらず、それまでの日常生活が一変するような感覚を覚えていた。それは子が依存する薬物が違法なものであり、「犯罪」が家の中で起きてしまったことへの反応といえるものなのだが、そういったものを押し込めて、子の薬物の問題を周囲に知られないように「ふつう」を演じなければならないという苦しみを伴うものであった。また、「犯罪」であり、「警察に知られてはならない」という思っていても、切羽詰まって助けを求めた相談先は、医療機関ではなく「警察」であったことから、薬物依存症、殊に違法薬物への依存のとらえ方を象徴しているのではないかと考える。さらには、インタビュー参加者の語りには、子に薬物の問題があることを「親として」認めることへの抵抗があり、これが「言いづらさ」の根底にあることがうかがえる。
現在の進捗状況としては、インタビューデータの文字化を終え、分析の段階である。これらを丁寧に描き出すことにより、薬物依存症者の家族の抱く「言いづらさ」だけでなく、薬物依存症という疾患に対する家族の視点および家族支援のあり方を検討したい。